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音声入力で圧倒的に便利に!1日2時間残業減――就労継続支援B型とホームレス自立支援、刑務所出所者生活サポート【認定NPO法人抱樸】後編

  
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B型.png 就労継続支援B型「多機能型事業所ほうぼく」の様子

 ホームレス支援の炊き出しや、その後の自立支援、障害者の就労継続支援、刑務所出所者の生活サポート、子どもの居場所づくりなど、多岐にわたり精力的な活動を展開する認定NPO法人抱樸(ほうぼく)。福岡県北九州市を中心に、生活に困窮した人や、社会から孤立した人たちの生活再建を支援しています。現在抱樸には28の事業部署があり、パート勤務も含めるとスタッフ数は116名にのぼります。

 後編となる今回は、ホームレスの自立支援、障害者の就労継続支援、刑務所出所者の生活支援の部署で、それぞれキントーンがどのように使われ、どんな効果を生んでいるのか、お伝えします。

前編はこちら

体感で1日2時間、残業が減った/就労継続支援B型

  最初に登場してもらうのは、障害者の支援を行う「多機能型事業所ほうぼく」に所属する、今浪沙織(いまなみさおり)さんです。この事務所では、就労継続支援B型と生活訓練(自立訓練)を行っています。

 「うちの法人がホームレスの方の自立支援をしてきたことから、ごく軽度の障害の方が多く、ぱっと見は『ふつう』の方ばかりです。ちょっと空気が読めなかったり、読み書きができなかったりというのはよくあることで、それでも障害者としてではなく、健常者として生活してきた方がほとんどです」

 ここで働く人の多くは年配の男性です。若いときは現場仕事をしていたものの、年齢とともに体力が衰えて身体を壊し、現場に出ることが難しくなり、路上生活にいたってしまった人が多いのです。

今浪さん.jpg 「多機能型事業所ほうぼく」の今浪沙織さん

 キントーンでは、スペースでスレッドを立てたりアプリをつくったりしながら、各種情報を共有しています。以前はGメールを中心に、職員によってはLINEやSMSなども使って連絡を行っていましたが、キントーンが導入されてツールを統一できたので、これからどんどん使っていきたいと今浪さんは考えています。

 「流れていく情報は、アプリでなくスレッドでいいかなと思っています。たとえば納品関係の情報です。今日は何を納品した・何を受け取ったとか、こういうクレームがあったとか、これをいつまでにやってください、といった情報はあまり遡る必要がないので、スレッドで行っています。一方で、職員研修や実地指導の資料は行政がチェックするので、時系列で一覧化できるよう、アプリを使っています」

 このほかスペースでは、買ってきてほしいものを書き込んでおくスレッドや、「30分でできる仕事」を書き込むスレッドもあるといいます。

 「新しい職員がいるので、ちょっとしたすきま時間ができたときにやれることを、スレッドに書いておくんです。カーテンのレールが外れているから直しておいてとか、下駄箱が汚いから片付けておいてほしい、とか。『HELP!!リスト』スレッドに書き込んでます」

Help (1) (2).png 「HELP!!リスト」スレッド画面

 キントーンを使うようになって一番よかったのは、支援記録兼日報の入力時間を大幅に短縮できたことだといいます。以前は全員が一つのWordデータに記録していたため、リレーのように誰かが書き終えるのを待たなければなりませんでした。でも今は、各自の空き時間にスマホから入力できるので、待ち時間が不要になったのです。

 「事務所では毎日、朝から夕方までいろいろな出来事があるのですが、以前はその共有漏れがとても多かったんです。いろいろあり過ぎるから、朝起きたことを夕方には忘れてしまう(苦笑)。でも今は、利用者の誰々さんが今日はお休みですとか、この件は気を付けて対応してください、といった情報も、確実に共有できるようになりました。この人には伝えたけれど、あの人には伝え忘れた、といった共有漏れもありません」

 今浪さんはキントーンを使うようになるまで、いつも最後に日報を記録していたため、毎日残業が長引いていました。それが今は「体感で2時間」は残業が減ったということで、職員9名分を合計したら、相当の時間短縮になっているだろうと話します。スマホから音声入力できる点も「圧倒的に便利」だということです。

 「私たちの(福祉)業界は、いまだにこういった支援記録を手書きしているところが多いんですけれど、今はキントーンのような便利ものがあるので、是非知ってほしいです。本来かけなくていい時間を、省くことができます。自分たちで好きなようにカスタマイズできるのもいいですね。ほかに、こんなツールはないと思います」

 今後の課題は、納品請求書のアプリを完成させることです。現状は、納品書と請求書を別々に入力しているのですが、これを一度に出せるようにして、且つ一週間分の納品を自動集計できるようにしたいと考えているということでした。

出先からでも情報を参照できる/困窮者・ホームレス支援

 続いて登場してもらうのは、ホームレス状態から自立に踏み出した人たちの生活支援をする部署の、佐藤敦洋(さとうあつひろ)さんです。

 「抱樸は1988年から野宿している方たちの支援をしています。当初は『野宿からの脱出』を目指していましたが、やっていくうちに、せっかく住まいを確保できてもその方の社会的孤立が解消されなければ、結局また野宿に戻ってしまうケースが少なくないことがわかってきました。そこで野宿を脱したあと、住まいでの生活を定着できるようなアフターサポートが必要だということで、『自立後支援』を行うようになったのです」

 抱樸が北九州市の委託を受けて「ホームレス自立支援センター」の事業を開始したのは、2004年のこと。佐藤さんが所属する「自立生活サポートセンター」はその翌年、2005年春にできました。

下駄箱.png

 自立支援は支援期間がその人が亡くなるまでの長期にわたるため、さまざまな問題が起きます。センターを出た後、昔の借金の債権会社から督促が来たり、アルコール依存症なのに再度飲酒をしてしまったりすることも。専門家に相談しながら解決することが多いのですが、相談のためには、過去の対応記録を残しておくことが重要です。

 「どんな人で、どういった課題があって、以前こういうことがあって、今後はこういうことがあるかもしれない。そんなときは誰につなぐといいよ、といった情報を引き継ぐため、キントーンのアプリに1700名を超える人たちの対応記録を残しています」

サポート記録.png サポート記録アプリの一覧画面

 アプリに入力するのは、支援対象者の金銭管理、病院受診や買い物の同行、住まいのトラブル、生活保護のケースワーカーさんとの仲介といった対応記録など。さらに、その方が亡くなった後も、本人の部屋の片づけや清掃、家賃滞納状況について記録しているとのことです。

サポート記録レコード画面.png 支援対象者の基本情報のアプリからサポート記録アプリもみられる

「出先からスマホでデータを見られるのも、助かります。たとえば、亡くなられた方のアパートに行くとき、鍵は持っているのに『あれ、何号室だっけ?』と慌てることがある。そんなときもキントーンの記録を見れば、すぐに部屋番号を確認して入室できます。部屋に入ったら今度は写真を撮り、それもキントーンに添付しておく。すると『この程度の荷物なら僕らで片付けられる』とか、『うちでは難しいけん、外部の業者に頼もう』といった判断もしやすくなります」

佐藤さん.png 「自立生活サポートセンター」の佐藤敦洋さん

 なお抱樸では、キントーンを導入するまでMicrosoftのAccessでデータベースを管理していたそうですが、データ量が大きすぎてメンテナンスに苦労していたといいます。週に1度、各職員のデータベースの同期を取って最適化を行っていたのですが、毎回3~4時間かかっていたため、帰りが終電になってしまうこともよくありました。でもいまはそんな作業は不要です。

 さらにAccessを使っていたときは、各部署ごとのデータベースにしかアクセスできなかったため、他部署のデータベースをみるときはその都度、該当部署に足を運ばなければなりませんでした。でもキントーンになってからは、他部署のデータも見られるので「本当にラクになった」と佐藤さんは話します。

 今後キントーンでは、支援対象者の名前で、他部門のデータも検索できるようにしたいとのこと。

 ホームレスの自立支援の部署にいる、春田陽一(はるたよういち)さんにもお話を聞かせてもらいました。春田さんの所属する「ホームレス自立支援センター」は、先ほどの佐藤さんの「自立生活サポートセンター」の一段階手前の、ホームレス状態から自分の住まいを見つけるまで、半年を上限に自立の準備をする場だということです。

春田さん.png 「ホームレス自立支援センター」の春田陽一さん

 なお、名称は「ホームレス自立支援センター」ですが、対象はホームレスの方だけではありません。2015年に生活困窮者自立支援法ができてから条件が拡大され、ホームレスに限らず、ネットカフェで暮らす生活困窮者も対象となったのです。昨年度は約50名が、このセンターを利用したといいます。

 職員は現在4名。利用者の方たちに資格を取ってもらい、より安定した仕事に就いてもらうためのサポートを日々行っています。抱樸では厚生労働省から「日雇労働者等技能講習事業」も受託しており、利用者にはこの講習も提供しています。

車両予約管理アプリ.png 車両予約アプリ画面

 「キントーンでよく使うのは、車や会議室の予約を管理するスペースです。最近はコロナ対策で職員の体調記録もすることになり、体温の記録アプリも使うようになりました。また、以前はメーリングリストでやりとりしていた一般的な業務連絡も、現在はスペースのスレッド機能で行っています。シフトの希望や、入所されている方の対応について『こういう処置が必要なので、こうしてくれ』といった引き継ぎ事項も、そこに書いています」

今後は受入れ施設の情報も蓄積を検討/刑務所出所者への支援

 次に、刑務所出所者の生活定着を支援する部署の小畑孝仁(おばたたかひと)さんと、蔦谷暁(つたやさとる)さんにもお話を聞かせてもらいました。

 抱樸では2010年から、福岡県の委託事業として「地域生活定着支援センター」をスタートしました。これは主に、刑務所など矯正施設を出所したものの行き場がない、高齢者や障害のある方に住まいの確保や福祉サービス等の利用について調整を行い、地域で安定した生活を送れるように支援する事業所です。

 具体的な業務は、まず刑務所に出向き退所者と話をして、出所後の生活を共に考え、その後も伴走して支え続けていくこと。現在は9名の職員で、累計で700人近くの支援対象者の相談対応を行っていますが、近々2名増員する予定だということです。

小畑さん.png 「地域生活定着支援センター」の小畑孝仁さん

 「支援対象の方の情報は、出所の約半年前に保護観察所から文書でもらうので、私たちはその文書から、必要な情報をキントーンのアプリに打ち込みます。

 それから出所までの半年間に、少なくとも3、4回の面会を重ね、その方に合った住まいを福岡県内で探していきます。この部分が一番大きな仕事かもしれません。引受人がいないなど、行き先がない方なので、大半は地域の福祉施設などにおつなぎしますが、なかにはアパートに入られる方もいますし、抱樸の施設で受け入れることもあります」(小畑さん)

 キントーンを担当する蔦谷さんによると、職員が朝と夕方に書く日報は、現在アプリで管理しているといいます。スペースではZoomアカウントの利用管理を行ったり、事務所移転の情報を掲載したりしているということです。

日報アプリ入力画面.png 日報アプリの入力画面

 「キントーンを使うようになって、他部署の情報も見えやすくなりました。今はこういうことをやっているとか、どんな課題があるといったことがわかって、情報共有がしやすくなったことを感じます」(小畑さん)

 蔦谷さんは、データベースの修正もラクになったと話します。

 「以前、Accessを使っていたときは、修正変更なんて考えるのも面倒な作業だったので尻込みしていましたが、キントーンなら場所の移動もマウス操作ひとつで済む。何度でも試せるところも、すごくいいです」

蔦谷さん.png 「地域生活定着支援センター」の蔦谷暁さん

今後は、受け入れ先となる福祉施設の情報もキントーンに蓄積していくことを検討中です。「この施設は問い合わせをしたことがある」「ここは拒否的だった」などの情報を共有できれば、強力な援助ツールになっていくだろうと期待しています。

まとめ

今回、一部の事業だけでなく法人全体で伴走型支援にキントーンがどのように役立っているかを伺いました。今後、抱樸職員の方々の働く環境、困窮者を取り巻く環境がさらに改善し、幸せな共生社会の創出が進むことを楽しみにしています。