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高齢化地域の生活を守る移動販売のkintone活用【NPO法人ほほえみの郷トイトイ】

  
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NPO法人ほほえみの郷トイトイは、「地域の絆でつくる、笑顔あふれる安心の故郷づくり」をキャッチフレーズに、山口県山口市の阿東地域で地域づくりを進めています。

2012年に地域の交流拠点となる「ほほえみの郷トイトイ」をオープン、地域内の買い物と見守り機能を併せもつ移動販売車や、手作り惣菜をお届けするトイトイ工房、地域食堂などの運営を通じて、地域に住む一人一人の自発的かつ主体的な地域づくりを支えています。

今回は事務局長の高田 新一郎さんに、移動販売事業においてどのようにkintoneを活用されているのかお話しいただきました。

中山間地域で唯一のスーパーが閉店

1.山口市阿東地域とは.jpg

私たちの地域は標高が300m近く、朝晩は涼しく、昼間との寒暖差が大きいおかげで、美味しいリンゴや米が取れる山間部の地域です。人口は旧阿藤町という合併前の町のエリアで約4,800名程度、世帯数がその半分くらいです。高齢化率は60%近くで少子高齢化が劇的に進んでいます。

NPOでは地域の将来ビジョンを地域の皆さんと作って、その実現を目的に課題解決を進めてきました。

2.地域の将来ビジョン.jpg

きっかけは唯一あったスーパーが急に閉店してしまったことです。地域のみなさんが一気に不安になったところからスタートしています。地域のなかでここはいずれ何もなくなるんじゃないかという会話も聞こえてくる状況になっていたんですね。

地域拠点を作り移動販売車もスタート

人は確かに減っていくけれども、それでも笑顔で安心して暮らせる地域を作ることで、失いかけていた「誇りと自信を取り戻そう」を合言葉に取り組みを進めてきました。

まずスーパーの跡地を借りて地域拠点を作りました。買い物という課題が顕在化していたので、地域拠点にはミニスーパーを併設する形でスタートしています。ただそこに来られないお年寄りもたくさんいるので、2年目から移動販売事業を取り入れています。

最初は何とか地域の生活を守ることが目的でスタートしました。移動販売も赤字のままスタートしましたが、少しずつ口コミで広がって、今では約300件のお客さんのところに週5日間、多いかたで1人あたり週2回伺うようにしています。

3.住み慣れた地域で暮らし続けることのできるコミュニティづくり.jpg

今、11年目に入りますが、最初の5年はなかなか黒字に転換できずに、ミニスーパーなどで出た利益を移動販売に投資する形で生活を守っていました。4、5年前からはちょうどコロナ禍もあって移動販売の需要が増え、今では移動販売事業が全体を支えています。 自発的に高齢の女性の皆さんが惣菜の加工グループを立ち上げられたり、子どもたちにいろいろな体験をさせたり、健康に歳を重ねていけるような介護予防に取り組んだり、地域の移動を考えたり、地域の持続可能性を高めるいろいろな取り組みを行っています。

事業継続と満足度向上のためにkintoneを導入

移動販売は地域に新たな価値を提供してきました。近所の人同士が移動販売車を目がけて歩いてきて小さなコミュニティが再構築されますし、1軒1軒ご自宅をお訪ねするので見守りにもなります。

4.ほほえみの郷トイトイの移動販売事業.jpg

また、手作りのお惣菜事業では高齢の女性が活躍してくれています。それを持っていくことによって食生活も充実し、スタッフとの会話を楽しみにしてくれます。地域社会と繋がっているという感覚を地域に提供してきました。

生活のインフラとして重要になっており、この移動販売車が走らなくなると生活できない人も実際いるんです。どうやってこの事業を継続していくのかと考えた時にkintoneを活用することになりました。

5.訪問に関するデータをスマホに入力.jpg

kintoneには気づきや注文の品、不在であったなど訪問に関するデータをスマホで入れていきます。拠点でも移動販売車が何軒目まで終わっていて、どういう状況にあるかというのがわかるんです。

kintone移動販売訪問記録アプリ2.jpg

出発前の準備リストアプリでは、何を準備するかのデータが共有されていてすごく良くなりました。誰々さんは、こういうものを頼まれるとか、こんな様子だったみたいなことを共有していくことでいろいろな成果が出ています。

もっと地域の皆さんに満足してもらうために

「我々の移動販売は何のためにやっているのか?」ということを考えた時に、「もっと皆さんに満足してもらうことができないだろうか?」という発想でkintoneを導入しました。

通常のスーパーは品揃えの良さと価格が比べる基準ですが、私たちが品揃えを増やし価格を安くしたら本当に皆さんが喜ぶのか? というと、安いに越したことはないですが、それだけでは満足しないでしょう。

実は高齢者の皆さんは、何よりもコミュニティや人との関わりを求めているんだなということを3、4年経って、ある高齢者のお話から気づきました。

そこで、1名だった販売員を2名にしました。

2人いると、お客さんも自分の気の合う人と話すことができます。そうすることによって人件費が2倍になりますので、これは賭けではありました。

6.kintone導入のきっかけ.jpg

そこで何とか情報を共有できないかということでkintoneを活用し、各スタッフが気づきを入力していきました。

例えば、今日おばあちゃんがちょっと足をひきずっていたとか、風邪をひいていたとか、息子さんが来週帰ってくるという話ですごく喜ばれていた、みたいなことを入れるようにしました。

もう一つは、移動販売中に口頭で注文された物をスマホでkintoneに入力し、次に持ってくるといった御用聞きが増えていきました。以前は移動販売から帰ってきてから注文を記録していたので大変だったんです。 この人はこの曜日のコースだとこういうものをたくさん買っているから、次はこれを多めに積んでいこうとか、前回こうだったから今回こうしようということが、人の感覚ではなく、データに基づいて判断できるようになり、ベテランの販売員も、経験の浅い販売員も品揃えのクオリティをある程度一定に保つということができるようになりました。

共感と思いやりのビジネスモデル

販売スタッフの研修でもkintoneが非常に有効でした。我々は物を売りに行くのではなく、あくまでおじいちゃんおばあちゃんに会いに行って、そこでいろいろなお話を聞いて、皆さんが必要とする笑顔になるサービスを提供するという方針を徹底してやっていくことができました。

しっかり話を聞くことで、皆さんが発する言葉の裏側にある本音や思いを汲み取ることができるようになる。そうすると、信頼関係が構築されていくので、スタッフの誰が行っても、地域の皆さんから信頼してもらえるようになってきました。

我々の事業はソーシャルビジネスで、利益の最大化が目的ではなく、社会課題の解決、我々の場合は地域の生活を守ることが最大の目的です。

本来は事業として成立しにくい小さな市場で、非効率なエリアで移動販売を行っていますが、地域の皆さんとの信頼関係を得て、「あなたたちを待っていたんだよ」「あなたたちから買い物したいんだよ」「あなたたちと繋がっていたいんだよ」というお互いを思いやる関係が成立してきました。

共感と思いやりのビジネスモデルを我々の移動販売は目指しています。その裏側でkintoneは非常に大きな役割を果たしてくれていると思います。

移動販売の時間は、話ができる楽しい時間

kintoneの導入によって地域や私たちの事業にどんな変化があったかというと、この移動販売の時間を楽しみにされる高齢者が圧倒的に増えました。

1軒あたり滞在できるのはわずか5分10分です。だけど90歳を超えるおばあちゃんがうちのスタッフに言ってくださったのは、「1週間に1回あたなたちと話す10分が私は本当に楽しみで、それを生き甲斐に日々楽しく暮らしているんだよ」と。

7.kintone導入による地域の変化.jpg

高齢者の皆さんが直接デジタルデバイスを使って便利になったり楽しくなったりということもありますけど、間接的に我々が高齢者の皆さんに幸せな気持ちを感じてもらおう、楽しみを持ってもらおうと、IT技術をうまく使いそれが実現できることが実証されたなと思っています。

信頼関係が構築されると、日常会話の中で本音が出てくるんですよね。信頼関係がないうちにいくら「おじいちゃんおばあちゃんに何か困っていることない?」とか、「何かあったら手伝うよ、助けるよ」と言っても、ほとんどのかたが、「いや大丈夫よ、私はこうやって暮らしているから」となっちゃうんですよね。

だけどそこに信頼関係ができて、日常の会話が膨らんでいくと、「実はね」という話がやっぱりたくさん出てくる。そういう話の中に、本当の意味での潜在的なニーズというものがあります。よく行政の皆さんや我々もアンケートをとりますが、そういうものは表面的などこでも顕在化してるニーズや課題なんです。その裏側にある本当に求めているものをいかに聞き取るかということが非常に大きくて、これを実現するためにkintoneが活躍してくれています。

2名体制で売上は7割増に

販売1名体制の時に比べ、2人にして2〜3ヶ月くらいで売上は7割増になりました。そうすると2人目の人件費は軽く捻出されます。

kintoneを導入したから即そうなったというわけではないですが、あくまで顧客のニーズ、満足感、そのかたの求めているものをうまく引き出そうとする目的に対して、有効な手段としてkintoneを導入し情報共有をした結果、移動販売事業が持続可能なビジネスモデルとなりました。

kintoneを紹介いただいてありがたかったなと思っています。日々の活動の中でイメージできていたやりたいことにうまくはまってくれました。

通常のシステムだと、システム会社に変更したいと伝えて、何か月後かにそのテスト版が出てきて、お金も時間もかかります。kintoneはとりあえず作って使いながら、使いやすいものに変えていけます。おかげで成り立ちにくい移動販売というビジネスが黒字転換しました。

8.kintoneによるデータの活用の効果.jpg

POSのデータをkintoneに流し込み、購買予測や売り上げランキングの集計もしています。データを分析することで、限られたスペースでより良い、売れるものを積んでいくことができるようになっています。朝の準備が一覧でわかるので非常に便利です。

うちのミニスーパーで扱ってないものを欲しいというかたもおられます。そういうものは注文品として、次回までに持ってくるねと伝えて、こちらが仕入れて持っていくという買い物代行的なものも増えてきました。

人口減少が進む中で、高齢者の買い物や移動の課題は日本中にあります。ただ移動販売は成り立ちにくいので、福祉的な観点で行政が補助を入れて走らせるケースがすごく多い。そんな中で、移動販売を自分たちで何とか回していくことができています。

今はスタッフ同士が情報共有をしていますが、他の地域で暮らしているご家族から様子を知らせて欲しいというニーズや、市役所の保健師さんからどこどこのおばあちゃんの様子を知らせてほしいという話もあります。

スマートシティが叫ばれていますが、大きなデータ連携基盤というよりは現場レベルで、例えば我々が使っているkintoneを保健師さんも見ることで、地域の高齢者を関係者が見守り支える連携ができるんじゃないかと考えています。

9.地域のデジタル化R1.jpg

デジタル化が進み世の中が変わってきましたが、本当は暮らしの中で地域に暮らす人々が何を望んでいるかを的確に捉えることが大事ですよね。

日々の暮らしに安心やちょっとした幸せな気持ちとか、嬉しさを望んでいる。それを把握していくことが新しい技術を活用する第一歩だと考えています。

これまでこの日本という国を支えてこられた後期高齢者の皆さんが楽しく安心して暮らせるように、ストレスなくデジタルの恩恵を受けてもらいたいなと思いながら取り組みをしています。

地域での暮らしに笑顔と安心が増えて、今暮らすかたたちが、地域の将来と自分たちの暮らしに希望を感じてもらえるように、kintoneをはじめとする技術をもっと活かせるといいなと思います。

質問コーナー

Q. kintoneを導入する際に事業所内では、どのような意見や議論がありましたか?導入を実現するために工夫されたことなどがあれば、ぜひお聞かせください。

A.スタッフからあまり反対意見はなかったです。私は苦手だからできないかもしれません、ちょっと自信ありません、という意見があったので、これはそこまで難しくないよと伝えました。

気づきを書き込む時に、他のスタッフが見てもわかるように書き込もうということでスタッフのスキルが上がるというか、意識が変わったという副次的な効果もありました。

多少使いかたを覚える必要はありますが、その先に地域のおじいちゃんおばあちゃんの笑顔があると思ったらみんな頑張ろうという気持ちになれました。目的や目指すべき方向性を明確にして説明しました。

Q. kintoneの運用サポートは、どなたが対応されていますか?

A. 最初は外部のかたにお願いしていたのですが、今は地域の若い人が対応してくれています。