コロナ休校をきっかけに、400名規模のPTA活動をオンライン化!各種「アナログ」を一気に削減【東京都内公立S小学校PTA】
- PTA
- kintone
- イベント
- チーム応援
- メールワイズ
左から、東京都内公立S小学校PTA オンライン委員長 占部伸一郎さん、同前委員長 渋谷雄大さん
2020年春、全国の多くの学校でコロナによる臨時休校が始まりました。未曾有の事態に、なすすべなくフリーズする学校やPTAが多かったなか、すぐに有志でオンラインホームルームを始め、さらにPTA活動のオンライン化まで進めた保護者たちがいます。
どうやって実現したのか?2021年6月に開催したオンライン交流会「チーム応援カフェ」で、東京都内公立S小学校PTAオンライン委員会委員長の占部伸一郎(うらべ しんいちろう)さんと、前委員長の渋谷雄大(しぶや ゆうだい)さんが、これまでのいきさつを話してくれました。
アナログが多く非効率な運用を「なんとかしたいよね」
S小PTAのオンライン化のきっかけは、昨年3月から始まった臨時休校でした。子どもたちは突然学校に行けなくなり、友だちとも会えなくなってしまいましたが、学校がすぐオンライン授業を始めるのは難しい状況でした。そこで一部の保護者、主に「おやじの会」の父親たちが、ひとまずホームルームの時間だけでもオンラインで行えるよう、有志で動き出したのです。
オンライン化の取り組みの経緯
オンラインホームルームを実施したのは、4~5月でした。校長先生にお話をしてもらったり、Zoomの機能を使って子どもたちにお絵描きをしてもらったり、「オンライン子どもまつり」を行ったりしたところ、全児童約400名のうち最大100名もの児童が参加したそうです。
オンラインホームルームの様子
最初は有志で始めた活動でしたが、次第に参加者が増えてきたため、PTAの委員会のひとつとして運営体制を整えることに。こうして7月に発足したのが「オンライン委員会」でした。
PTAではよく役の押し付け合いでトラブルが起きがちですが、S小PTAのオンライン委員会は公募とし、やりたい人がやる形で始めました。
「オンライン委員には一定のスキルや意欲が必要だね、ということで、公募にあたっては、かなり長いエントリーシートを書く方式がとられ全員が応募しました。『こんなことができます』とか『こんなことをやりたいです』といったことを提出し、役員会が個別に面接をして選びました」(占部さん)
こうして選ばれた委員は13名。母親と父親の比率は約7:3で、ほかの委員会活動に比べると父親の率が高くなりました。2021年度はさらに人数が増えて、現在18名で活動しているということです。
オンライン委員会発足時(2020年7月〜)の組織図
「皆さん、多様なバックグラウンドをお持ちでした。SEのかたもいれば、大学で情報管理をしているかた、広報のお仕事をされているかたもいて、それぞれがスキルを持ち寄って活動しています。毎週土曜の夜にZoomでミーティングをしていて、リアルでは一度も集まっていません」(占部さん)
オンライン委員会がスムーズに発足できたのには、いくつかの要因がありました。ひとつは、PTA会長のリーダーシップがあったこと。コロナの前から「今年はオンライン化を進めたい」と話していた会長が率先して旗振り役となり、周囲の理解を得ながら進めてくれたのです。
さらに、役員会のメンバーや、校長と副校長の理解があったこと、オンラインホームルームの実践によってオンライン化の気運が高まり、「委員をやりたい」という人が見つかりやすくなっていたことなども、追い風となりました。
「みんな、アナログな運営方法に『なんとかしたいよね』という問題意識を抱いていました。働いているお母さんたちも、昼間の活動が主体となるPTA活動の体制では立ちいかなくなると感じていたのです。それに、みんな仲良くワイワイ活動しているので、『サークル感』が出てきて楽しくなって続いている、というところもあります」(占部さん)
なお、委員会の追加には規約改正が必要なため、きちんと総会も通したということです。
キントーンを「会員専用ホームページ」のような場に
オンライン化にあたっては、さまざまなツールを整備しました。チーム応援ライセンスの対象であるキントーンとメールワイズ(年額使用料各9,900円)のほか、動画共有サービスのVimeo(同15,840円)、ビデオ会議のZoom(同26,400円)も契約して、合計すると年額は62,040円。1家庭当たりの負担は約200円です(会員世帯数約300)。
オンライン化の全体構成
現在、メールの登録率は99%です。キントーンは全家庭にIDを配布しており、このうち83%の人が、少なくとも一度はログインしているといいます。S小PTAでは、このキントーンの仕組みを、S小のイニシャルにちなんで「Sねっと」と名付けています。
キントーンはなるべくモバイルアプリで使うように呼びかけているそう。メールワイズは、キントーンと連携し簡単にメール配信できるサービスです。
2020年度のオンライン委員会の活動内容は、具体的にこんな感じでした。
・各ツールのプランと、支払いや契約方法の検討
・PTA活動で使うWi-Fi環境の整備
・保護者向けのプライバシーポリシーや運用ルールの作成と告知
・サイトのコンテンツ作成
・問い合わせ窓口用のGmailアドレスの設定と告知 など
さらに、各委員会活動でもキントーンを使ってもらうため、各委員長に個別にヒアリングを行い、現状どういった業務があり、どういうところをオンライン化できそうか、といったことを確認してきました。
たとえば校外委員会では、これまで毎年保護者の電話番号を掲載した「旗振り当番」のプリントを作って配布していましたが、これをキントーンのアプリで管理することに。アプリだと、当番の日に都合が悪くなって交代してくれる人を探すときも、簡単になります。
「ただし、お話をきかせてもらった委員長さんが『いままでのやりかたでいいです』と言えば、それ以上は強く言いません。僕らは基本的にサポートの立場です」と占部さんは話します。
学校と保護者間のやりとりも、オンライン化の対象です。たとえば最近は、個人面談の日時調整もアプリで行えるよう、試験運用しているそう。これまで紙で日時の希望を集め、表を作って調整していた先生の負担の軽減が期待されています。
Sねっとは現状、学年ごとのスペースに、必要な情報を集約しています。クラスごとの管理では、クラス替えで再設定が必要になるので、学年ごとの管理にしています。この学年スペースが、いわゆる「会員専用ホームページ」の役割を果たしているのです。
各学年のスペースには、最新のお知らせや土曜日授業など行事の情報を掲載し、学校から配付されるプリントをアップロードしています。該当する学年の保護者以外はアクセスできないように設定しているので、セキュリティの面でも安心です。スレッド機能では、保護者へのお知らせや、保護者間でやりとりもできます。
Sねっとの画面構成
「ひとまず、ここに来れば保護者が見たい情報を見られるようにしてあります。許諾の関係で整理が大変なところはありますが、行事の動画も子どもの顔があまり映らないものを載せています。実際、Sねっとを使っていない人もまだまだいますが、2週間に1度メールマガジンを配信するなど、なるべく使ってもらう取り組みをしているところです」(占部さん)
しょっちゅう学校に足を運ばなくてもよくなった
S小PTAではこの1年でオンライン化が進み、たくさんの「アナログ」が姿を消しました。
▼ キントーンを導入して不要になったアナログ作業(一部)
・新学期の保護者会で学年委員が全員のメールアドレスを収集し管理。クラスに向けた連絡をBCCで連絡網を回す。年度が替わる際に削除
・保護者向けお知らせの原稿を学校に確認してもらうため、平日昼に学校に文案を持参し、赤入れしてもらった原稿を取りに行く。
・広報誌で使う写真は学校がDVDに焼いたものを、平日昼に取りに行く
・学校の集会室を予約する際は役員にメールで依頼し、学校にあるカレンダーを確認して空き状況を返信
・委員会などのマニュアルや資料などはUSBメモリで手渡しで引き継ぎ
「お父さんたちが小学校の状況を知りやすくなった面もあると思います。これまでは学校のプリントはお母さんで止まってしまって、父親までわざわざ共有されないことが多かったと思いますが、お父さんでも見たい人はもっといるんじゃないかなと。そういう意味でも、Sねっとの役割は大きいと思っています」(占部さん)
この1年を振り返って占部さんは、オンライン化にはいくつかのポイントがあったと話します。
ひとつは、家庭環境の違いを考慮すること。オンライン化を進める際にはどうしても、スマホやネット環境がない家庭への対応が課題になります。これについては事前に各家庭の通信環境の調査の部分から学校と連携して行っています。今後については、PTA関係のお知らせはメールを基本として、希望者のみに紙を配布する形にしていく方針だということです。
もうひとつは、保護者や先生のなかにあるオンライン化に対する不安に耳を傾けること。「オンライン化はなんとなく不安」「手渡しにこそ意味がある」「情報流出が心配」といった意見にもじっくりと耳を傾けつつ、勉強会などを重ねて「いかに役に立つか」を伝え、不安を取り除いていくつもりだそうです。
さらに、子どもや保護者の個人情報をどう守るかを検討すること。名前やメールアドレス、写真、作品、声など、どこまでを個人情報とみなして守っていくかは、今後学校とも連携して、許諾の取りかたなどのルールをつくっていきたいということです。
今後の課題としては、会員の情報リテラシーを向上して、より前向きなコンセンサスをつくること。また、最初だけログインして以降Sねっとから離れてしまっている人たちにも、もっと日常的に利用してもらえるようにしていきたいそう。
保護者に使ってもらうための取り組み
学校や先生たちと協力体制を築くことも、大きな課題です。先生方にも積極的に使ってもらい、非効率な業務を減らしてほしいと思います。また、今は保護者が学校のプリントを写真に撮ってアップロードしていますが、もともと先生がデジタルデータを持っているはずなので、先生が直接Sねっとにアップロードしてくれるようになると効率的になります。
今後の展望として、仮にオンライン委員会の人数が減ってもうまく機能する体制をつくっていきたいと話す、占部さんと渋谷さん。これからもきっとS小PTAのオンライン化は進み続け、誰でも気持ちよく参加できる形がますます整っていくのではないかと感じました。