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発達障害のある人もない人も互いに支え合える地域へ ──当事者の活躍の幅を広げるkintone【NPO法人自閉症ピアリンクセンターここねっと】

  
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「発達障害のある人もない人も互いに支え合える地域」を理念に、宮城県仙台市で発達障害者支援のサービスを提供するNPO法人自閉症ピアリンクセンターここねっと(以下、ここねっと)。自閉症を中心とした発達障害の相談支援やデイサービス、通所サービス、グループホームといった12の事業を展開しています。 発達障害のある当事者を含む80名近いスタッフは、情報共有にkintone(キントーン)を活用し運営の効率化ができているといいます。ここねっとの常務理事の黒澤哲さん、総務の田中英輔さん、ここねっとへの支援をきっかけに非営利団体向けにプラグイン( kintoneの機能を拡張するソフト)を無償提供するようになった株式会社アーセスの遠藤大輔さん(当時)にリモートでお話を伺いました。

システムの移行を検討しているときに、運命の再会?

─事業の概要とkintoneを知ったきっかけを教えてください。

ここねっとでは、主に2つの事業を軸にして発達障害のあるかたを支援しています。ひとつめは相談支援。当事者やその家族から相談いただいて、行政のサービスにつなげる事業です。もうひとつは子どもから大人まで幅広くデイサービスを提供する、通所サービス事業です。

当法人のシステムは、私がMicrosoft Accessで構築したものを10年ほど利用していました。支援記録、財務記録など、データベース化したものは多岐に渡ります。しかし同時アクセスが難しく、各々の端末のなかにデータを蓄積していたので、汎用性が乏しいことが課題でした。

2. ここねっと 黒澤さま1.jpgここねっと 常務理事 黒沢哲さん

新しいツールを探していた2018年、高校の同級生で仙台にUターンしたばかりの遠藤さんに再会しました。「どんな仕事をしているの?」という話からシステムの課題を相談したところ、kintoneがニーズにマッチしていると紹介されました。最初は半信半疑でした。

─半信半疑だったkintoneを、どのように導入されたのでしょうか。

多少データベースの知識がありましたので、まずはアプリを自分で作成してみました。活用してみたら、こんなにすごいものがあるのかと感じました。できれば法人全体に広めたいと考えていたので、総務部の田中さんにもkintoneを紹介して、総務で使ってもらうことから始めました。

現在は法人全体の事務だけでなく各事業所でもkintoneを使うことを推奨し、レコードの登録や修正は全職員にやってもらっています。脱Excel、脱口頭、脱メールを目指し、基本的にはkintoneでやりとりをしようという方針をとっています。

発達障害のあるかたの利用状況はいかがですか?

通所されている当事者が18歳になり、当法人で職員として働くケースが増えています。職員80名ほどのうち10名以上いて、業務の指示や工程管理にkintoneを活用しています。

業務や工程別にkintoneでマニュアルを作成し、業務に関する細かい情報を記録しています。そうすることで、指示がなくても、情報を参照して滞りなく業務を進めることができています。

kintoneアプリのプロセス管理機能も積極的に活用しています。発達障害のあるかたには、全体像を把握してもらうことがとても大切です。そのうえでタスクを細かく分けると格段に理解しやすくなるという特徴があります。kintoneのプロセス管理機能はタスクを分けることにマッチしました。

3. ここねっと 田中さま.jpgここねっと 総務 田中英輔さん

また、インターフェースが視覚的にわかりやすいこと、加えてスペースという区切りかたやアプリのレコード画面、追加や編集ボタン、コメント欄からなる構成が、発達障害のあるかたの就労支援における「構造化」の考えかた(どこに何がどのようにあって、どこでどのような働きをするか、世の中のものを構造的に考えることで理解を促進すること)と、ぴったりはまっていると思います。発達障害をお持ちのかたにわかりやすい伝達方法は、そうでないかたにもわかりやすい方法につながりました。

「アプリ作成依頼」アプリを作成したところ、各事業所から、業務のお困りごとベースでのアプリの作成や修正の依頼が届くようになり、発達障害のある職員が担当になってどんどん対応しています。

─アーセスの遠藤さんはどのように支援をされているのですか。

基本的にはご自身たちでどんどんアプリやスペースを作成、運用されていて、kintoneの標準的な機能の活用はここねっとの皆さんで完結しています。たまにkintoneで実現できるだろうかと相談を受けて、実現方法を一緒に検討したり、構築が難しいときに構築を支援したりしていますね。時間極めのsmart ballon(スマートバルーン) 定額開発サービスをご利用いただいています。(アーセス 遠藤さん)

利用予約の受付、タスク管理もkintoneで構造化

─プラグインはどのようなものを利用されていますか。

最も頻繁に使っているプラグインはアーセスのKOYOMI(こよみ)です。デイサービスの予約受付に利用しています。インターフェースが見やすくて、管理がしやすいです。

もともと予約内容を紙で受け付け手作業で転記していたのを、フォームブリッジで受け付けKOYOMIを用いたkintoneアプリに直接取り込むようにしました。

利用者さん1人につき複数日程の予約がありますので、現在は、フォームブリッジとKOYOMIのあいだにkrewData(クルーデータ)を挟む設定にしています。フォームブリッジで複数の日程を入力してもらい、krewDataでデータ形式を変換してKOYOMIに登録する仕組みです。

4.画面キャプチャ.jpgフォームブリッジ、krewData、KOYOMIを利用したデイサービスの予約受付画面

国の助成金請求のシステムで手続きをするときも、KOYOMIから必要なデータをCSVで出力しています。さまざまな支援者が関わるアプリなので、見やすいことと事業にあった形に作り替えられる点が重要でした。KOYOMIはその要件を満たすので、とても助かっています。

Webフォームをkintoneにつなぐことができるフォームブリッジは、相談支援事業の講師依頼受付や、デイサービス利用者の予約申し込みなど、どんどん活用の幅を広げていっている段階です。

利用者の保護者もQRコードからフォームを開き入力することに慣れているので、抵抗なく使い始めていただけました。

フォームブリッジからKOYOMIに予約内容が登録された時点では、ステータスは「未承認」となっています。職員が確認して問題なければ「承認」にステータスを進めますが、不足があれば電話で確認して職員がその場でレコードを訂正します。

5.画面キャプチャ.pngKANBANを利用したタスク管理画面

各事業所では、定例業務の管理のためにKANBAN(カンバン)の利用も流行っています。毎月の定常タスクをKANBANのアプリに登録し、作業が完了したらステータスを「完了」にしています。「タブ区切り」もかなりの高頻度で利用されています。そう考えると、アーセスのsmart balloonのプラグインは、業務を構造化できるものが多いですね。チーム応援ライセンスの利用者には無償で提供いただいていて、とてもありがたいです。

─kintoneの導入効果はどのように実感されていますか。

具体的に数値として算出していませんが、大きな効果を実感しています。以前のシステムは重くて登録や更新に時間がかかっていましたし、ファイルが壊れたときに対応する時間が必要でした。kintoneに移行して、ここまで軽いのかという印象です。

紙で受け付けしていたときは、手書きで読めない文字や、聞き漏らしや伝え忘れの確認に時間を要していましたが、kintoneに移行してからはそれらが解消されて、利用者さんにも職員にもとても好評です。

印刷費用もさることながら、家庭への送迎時に手渡しでやりとりしていた手間や、お申し込み内容の確認の時間が削減されて、利用者さんの支援に充てられる時間が増えたことが一番大きな効果と考えています。本業に集中しやすくなりました。

─kintone のユーザーイベント「kintone hive 2019 sendai vol.2」では、「発達障害のあるかたが主体的にkintoneを使い始めている」とおっしゃっていました。

学校の先生や施設職員、地域の民生委員や児童委員のかたの理解を促すため、学校教育を卒業した当事者たちがこれまでの体験談を発表することがあります。その準備としてkintoneで「個人発表データ」アプリを作成し、障害の特徴にそれぞれのエピソードがどのように該当するのかを、系統的にまとめていくことに活用しています。

発表で求められる内容はだいたい共通しています。自身の特徴、幼少期の家族関係、診断を受ける前後の心境の変化、学齢期の様子、家族への想い、教育に望むこと、先生との関係など、項目を一覧できる構成になっています。アプリのコメント欄では、発表方法についてのアドバイスやほかの人の経験の提示に役立てています。

6.画面キャプチャ.png「個人発表データ」アプリの一覧画面

─発達障害のあるかたは、人と共有したりアドバイスをしたりされたりが得意でないと聞いたことがあります。kintoneではできているということですか。

それはかなりあると感じます。彼らは視覚的な情報にとても強く、口頭よりも文字で残るもののほうが記憶に刻まれやすいです。情報を共有したくないわけではなく、自分のことをわかってもらえる情報はむしろ好んで共有して、互いに共感しブラッシュアップしたいという想いがあります。それが動機となり、自主的なやりとりが活発になってきています。

発達障害当事者のかたの社会における可能性を高めていきたい

─当事者のかたがkintoneで活発にやりとりされている様子がよくわかりました。

もともとの資質が低いのではなく、必要な情報が届いていないので力を発揮できていないという前提で支援をしています。

情報が適切に届けば力を発揮でき、社会での可能性を高めていくことができる、そのためにkintoneを活用していきたいと考えています。

現在、各事業所で事務的な役割を担っている当事者は、kintoneで業務の正確性や効率が着実に向上しています。紙をベースに複数のシステムをまたいだ環境で業務をしていたときは「ここまでしかできないのかな」と思っていたんです。でもkintoneに集約することで「ここまでできるんだ!」という状況になっています。

─今後の展望を聞かせてください。

今後は、何百というアプリに散在しているデータをきれいに整理することや会計システムとの統合も目指していきたいです。

私たちの事業は行政との連携が柱となっていて、全体の34割を占めています。kintoneKOYOMIKANBANkrewDataを中心とするプラグインの連携により削減できたリソースを生かし、行政と随時打ち合わせをしながら、地域の皆さんの実情に合わせた支援を行き届かせていきたいと考えています。

─貴重なお話をありがとうございました。