Case
事例
「キントーンが組織の力を強めてくれた」選択的夫婦別姓の法制化を目指す
一般社団法人あすには代表の井田奈穂さん。以前はIT企業で広報を担当しており、現在はフリーランスでライターのお仕事をされているそう
結婚時に苗字を変えるのは95%が女性で、その多くが不便や苦痛を感じている。夫婦が同じ苗字にしないといけないために結婚ができない人たちがいる――。そんなおかしな現状を変えるため、「選択的夫婦別姓」の法制化を求めて活動しているのが一般社団法人あすにはです。
「あすには」を立ち上げた井田奈穂さんは、「キントーンとメールワイズが組織の力を強めてくれた」と話します。これまでの活動において、キントーンをどんなふうに活用してきたのでしょうか? 詳しく教えてもらいました。
「改姓がしんどい」「私も!」仲間が集まって活動開始
経団連や新経連、経済同友会、日弁連と連携して活動する「あすには」
「夫婦同姓か/夫婦別姓か」ではなく「強制改姓か/望む人だけが改姓する選択制か」が議論のポイント
「もともとはふつうの会社員だった」という井田さん。選択的夫婦別姓法制化の必要性を感じ始めたのは、2016年に夫が受けた手術がきっかけでした。2人とも苗字を変えたくなかったため、それまでは事実婚をしていたのですが、井田さんが手術同意書にサインしようとしたところ病院から断られ「本当のご家族を呼んで」と言われてしまったのです。
やむなく井田さんが改姓したところ、大量の名義変更を迫られたうえ、さらに法人登記も夫の苗字で行わねばならないことがわかり、愕然とすることに。
法律を変える必要性を痛感。なお井田さんその後、不便に耐えきれず元の苗字に戻したそう
当時、SNSで「改姓がしんどい」「こんな状況は日本だけ」などとつぶやいていたところ、「私も同じ!」と声をあげる仲間がどんどん増えました。「これは政治の問題だ」と気付いた井田さんは、議員陳情を始めることにしたのでした。
素人が法律を変えるときの3コース。井田さんは「梅」コースを選んだ
まずは地元の東京都中野区で陳情を行い、選択的夫婦別姓の法制化を求める意見書を国会に提出してもらうことに成功。手ごたえを感じた井田さんは、この活動を全国展開するべく、「選択的夫婦別姓全国陳情アクション」という任意団体を立ち上げたのでした。
陳情成功のノウハウを「武器庫」で共有
「全国アクション」と大きく掲げたものの、これからメンバーとどうやって情報共有していけばいいのか?井田さんが頭を悩ませていたところ、共に活動してきた仲間の一人、サイボウズの渡辺清美さんが、キントーンの「チーム応援ライセンス」を教えてくれました。
調べてみたところ、使用料は年間1万円弱と大変お値ごろ、900人まで利用可能で特に知識がなくても使えるとわかり、さっそく導入してみることに。
キントーンを使い始めたのは2018年10月だった
最初にキントーンで行ったのは、地域別の活動記録の掲載でした。新規メンバーが入るたびにスレッドを立ち上げ、各地域における進捗状況をマークで表示しました。
マークは全部で4種類。たとえば、最初の面会が終わったら「きらり」、意見書が可決されたら「祝(おめでとう)」のマークを表示する
次に行ったのは、陳情をする際に必要な資料や情報のストックでした。陳情に成功したところのノウハウを、後に続く人が他の地域で活かせるようキントーンに蓄積していったのです。
STEP1~3に分け、陳情の段階ごとに必要な情報を掲載。基礎知識を網羅した30ページの資料もあり、今も改訂しながら使っているそう
動画教材も作成。先輩メンバーが後輩メンバーに伴走する仕組みも整えた
新しく入った人も、「ファイル管理」を見れば何らかの「武器」を確実に手に入れられるようになった
調査データをアプリで分析→地方新聞の取材が続々
井田さんが最もキントーンの力を実感したのは、ある意識調査を行ったときでした。
2020年に行った「47都道府県"選択的夫婦別姓"意識調査」のデータ分析方法についてキントーン上でみんなで議論していたところ、「ひょっこり登場した青野さん(サイボウズ社社長)」がローデータをキントーンアプリにしてくれたのです。
アプリを使ってみたところ、グラフの作成や分析はもちろん、回答者の属性ごとのデータ切り出しも簡単に行えることがわかりました。
そこで井田さんは、地方紙から取材を受ける際に各都道府県ごとに切り出したデータやグラフを提示するようにしたところ、取材はますます増え、各地方紙に次々と掲載が決まっていったのでした。
「地方メディアにたくさん取り上げてもらえたのはキントーンのおかげだった」と井田さんは振り返る
調査データは各地で陳情を行う際の資料としても活用した
地方を勉強会で回った際は、議員の人たちが大きな関心を寄せてくれたという
活動の規模が広がりメディア露出が増えるのと比例して、活動するメンバーもどんどん増えていくことに。この頃から経費精算や人材募集などもキントーン上で行うようになりました。
バックラッシュに負けないための組織強化もキントーンで支えた
法人化に踏み切ったのは2022年の末でした。メンバーが700名に近づいてきた頃に、反対派から激しいバックラッシュが沸き起こり組織を強くする必要に迫られたのです。
活動するメンバーは大量の誹謗中傷を浴びせられるようになり、井田さん自身も職場への嫌がらせが増えたためやむなく退職することに。自宅前で不審者に写真を撮られることもあったといいます。
井田さんは「こんなに反対運動が起きるということは、私たちの活動成果が効いている証」と前向きに受け止めた
これまで国会や地方議会に対して一生懸命陳情を行ってきたけれど、このままでは法制化まであと半世紀はかかってしまう――。そんな危機感を抱くようになった井田さんらは、まずは組織を強くしようと決めたのでした。
そしてこの組織強化の際にもキントーンが支えとなりました。まずは「全国陳情アクション」「リサーチ」「グローバル」など全部で7つのチームをつくり、それぞれにスペースを作成したそう。
「議員専用」の非公開スペースや、イベントごとのスペースもある
アプリも「イベント申込み」「業務委託 発注」「理事会・社員総会議事録」「クラファン」など、得意なメンバーが必要なものをどんどん作ってくれました。
「誰がいつ見ても活動の内容やお金の動きがわかる形で共有できるようになり、すごく活動が広がった」と井田さんは話します。
規約や申請もすべてアプリに落とし込んでいる
全国の国会議員の情報もアプリに蓄積。それぞれの議員を誰が担当するかといったマッチングもアプリ内でできるようになった
新規メンバーの交流の場や各地で行われるイベント等の告知もキントーンで行っている
新しいメンバーに「陳情スタートガイド」を実施するチームや動画制作・SNS発信を強化するチームなども立ち上がった
外堀を埋めるアクションを続行中
こうして井田さんらが活動を続けるうち、2023年秋にはついにメンバーが800人を突破しました。これまで全国で426件もの意見書が可決され、国会に提出されたということです(2024年10月14日時点)
井田さんらが2018年に動き始めてから、加速度的に活動が広がっていった
しかしこれでもまだ国会は動きません。そこで井田さんらは「外堀を埋める」活動も展開し始めます。国内では4つの経済団体で勉強会を開き、さらに国際的なアドボカシーとして、国連女性差別撤廃委員会への働きかけも行いました。
経団連、女税連、新経連、経済同友会で勉強会を開催。ビジネスリーダーたちからアドバイスをもらった。政府に要望書を渡した際はこの4団体が同席してくれたそう
クラファンで資金を募ってジュネーブへ渡りNGOとして審査の場に参加したところ、井田さんらが求めた内容が全て網羅された「強い、強い勧告」を出してもらえた
世論喚起のため、夫婦同姓を続けると苗字が減少していくことを伝えるプロジェクトも開始。国内だけでも100以上の媒体に掲載され、海外でも120か国で報道された
取材依頼が来たときや地方でイベントを行う際などは、メールワイズで地区ごとに一斉メールを送っている
2024年秋の衆院選では、選択的夫婦別姓に反対する議員をクロス集計で可視化した。リサーチチームはキントーン上でやりとりしている
これまでの活動を振り返り、井田さんはこう話します。
「キントーンとメールワイズが、私たちのチームを強くするうえで本当に力になりました。『あすには』の活動に共感した方はぜひサポーターになってください」
キントーンをフル活用した「あすには」の全国アクション、いろんな分野で真似できそうです。井田さん、お話を聞かせていただきありがとうございました。