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【レポート】虐待防止のDX - 南丹市における要保護児童・家庭の見守りにおけるkintone効果検証

  
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2022年8月に開催したイベント動画

サイボウズは2018年より虐待防止のための児童福祉関係者の情報連携にクラウドサービスを5年間無料とする特別プランを提供しています。

この取り組みに注目し、kintone導入前後の変化について調査しレポートを公開したみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の齋堂美由季さんと南丹市の阪本樹里さんに結果や課題について解説いただきました。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 齋堂美由季さんの解説

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コロナ禍で様々なストレスが高まっていく中で、DV・虐待のリスクが増加するのではないかという指摘が広くなされていました。もともと養育機能が脆弱な家庭の問題がコロナで浮き彫りになり、支援の重要性も顕在化したのが今回の調査のきっかけでした。

そもそもコロナ以前から子どもや家庭の状況把握に要する業務量は膨大でした。さらにコロナ禍でなかなか直接会うのが難しい中、モニタリングすることに現場の負担や混乱が増加していることに危機感をもっていました。

ICT導入は今後の児童虐待防止分野の現場支援につながるのではないかと考えています。

kintoneを導入した運用実態や導入効果を客観的な数値として示すことで、自治体の皆様のICT導入の後押しになるのではないかと考えて、ヒアリングで縁のあったサイボウズと共同調査をする自主事業を立ち上げました。

導入前の状況.jpg

南丹市ではkintone導入以前は子育て支援課が中心となり関係部署・機関との連携を行い、やり取りや訪問、面談などの情報は記録票に記載していました。情報共有は電話、メール、訪問、紙資料の手交などでやり取りをしており、ケース会議の際には記録票をもとに資料を作成し、その他の部署・機関に共有していました。

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こうした中で、特に重大案件への対応を迅速化するため、情報共有の手段を変えたいということでkintoneを導入しました。

子育て支援課から他部署.png

子育て支援課からその他の部署・機関に連絡したものを割合で比較したものです。ほとんどの部署・機関で情報共有の頻度が上昇していました。

新たな情報共有ルート.jpg

とくに、教育委員会(学校教育課)と福祉事務所(障害担当)とは2週間で1件、会議による情報共有しかなされていませんしたが、kintone導入により2週間で40件と日常的な情報共有が直接なされるようになったという変化がありました。

他部署同士.png

子育て支援課以外の他部署・機関とのやり取りについても、kintone導入以前は1対1の電話での情報共有が主でした。kintone導入後は複数の部署・機関を公開範囲に設定できるため、1対多の直接連絡が容易にできるようになっています。必要な部署・機関同士が書き込んだ情報を直接参照でき、情報共有のタイムラグが発生しにくくなりました。

情報共有ルートの変化.png

情報の連携としては子育て支援課がハブとしての役割は変わりませんが、kintoneで直接参照できるのでタイムラグが少なくなるという変化がありました。

記録分量の増加.jpg

500文字以上書き込まれている記録の割合は、導入前(19.3%)と比べ、導入後(49.1%)と2.5倍に増加しました。

導入前は電話や口頭で聞いた内容を記録票に起こすプロセスがはさまっていました。導入後は各機関・部署で直接入力するため、やり取りする情報量が増えたものと考えられます。細かいニュアンスを含む伝わりやすい記録の蓄積が、振り返りやアセスメントや引継ぎにも役立っています。

質の変化.jpg

情報の質については、保育所、小・中学校など日常的に子どもと接触するセクションでの活用が進んだことが挙げられます。

日常的な経過記録がこまめに報告されており、即時に記録・共有でき、記憶の新しいうちに報告できるkintoneのメリットが活かされています。また緊急性の高い、連絡頻度が高まる状況では、電話とkintoneを併用して活用されていることも見て取れました。

子どもや家庭と日常的に接する保育士、教員の方々から寄せられた細かな情報が共有されるようになり、他機関の担当者が児童・生徒の様子をイメージしやすくなりました。

また情報が一元管理されることでケースの全体像をイメージすることができるようになり連携しやすくなりました。電話でメモを取り記録を起こしていると、その過程でニュアンスが変わってしまうことは否めませんでしたが、kintoneで同じ文章・文言をベースに連携できるようになりました。

kintoneの導入効果まとめ.jpg

南丹市でのkintoneの導入効果をまとめると

- 連携ハブとしての子育て支援課の機能のサポート
- 新たな直接の情報共有ルート
- 記録の精緻化・蓄積
- ケースの全体像の共有

が挙げられます。

詳しい調査の内容についてはホームページで公開されているレポートホームページで公開されているレポートをご参照ください。

南丹市の阪本樹里さんより調査に関するコメント

調査を実施して.jpg

南丹市では2019年2月よりモデルケースとして3ケースでkintone導入を実施しました。7月から本格的に連携を実施し、運用を始めて4年目になります。

kintoneのメリット・効果.jpg

関係機関が多ければ多いほど情報連携には有用です。kintoneは伝えたいことをタイムリーかつ一度に共有できるので、とても効果があると思っています。また、色々な機関の動きが見えやすくなるので、情報を既に知っているものとして、次の支援の展開やアセスメントに繋げられるというのも大きいと考えています。

連携の手段として4年目にしてkintoneは定着化しており、コメント欄も活用し、他の機関への動きへの敬意や謝意も伝えられ、気持ちのつながりも少しずつ作れています。

逆にデメリットはあまり思いつかなかったのですが、内容の確認をする上長の仕事は増えたというのが率直な感想です。

気を付けたいこと.jpg

kintoneを使う上で気をつけているのは、文字で伝えるので、相手の顔が見えないという前提で、丁寧に考えながら伝えないといけないということです。またkintoneだけに頼らないで、電話などで直接話したり、フォローをしたりすることは必要です。あくまでも記録と情報連携の手段であること、その先の相手を思いながら、支援につなげること、というのを日々意識しています。

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最後に課題を感じているところなのですが、ケースや所属によって活用に差が出てしまっているのは現状としてあります。全体に定着していくには時間がかかります。導入4年目を迎えるにあたって、今年度は教育委員会と総括をさせていただいて、今後どのようにkintoneを活用していくのか、考えていきたいと思っています。

質疑応答

Q.自治体を出た子どもや世帯の、次の自治体への引継ぎはどのようになっていますか?

A.転出された場合はケース移管をするのですが、その時はこれまでの全てのkintoneの情報を移管書に紙で添付をしてお渡ししています。

Q.子どもの居場所運営をしていますが、活動しながらkintoneの記録をしていくのが難しく、時間が足らなくなってしまいます。どのような工夫をされているのでしょうか?

A.訪問や面談の時にはその場で記録できないこともありますが、端末を持ち出して会議の記録をすることもあるので、そこは時間の短縮にもなります。出た意見をそのまま記録できるので、有効に活用しています。

一時保護など頻繁に連絡が入って来る場合は、kintoneの画面を開きながら、何時に何があったということを電話を受けこまめに記録することもあります。記録することは大事なことであり手間でもあるのですが、kintoneに記録するのと他のものに記録するのと、そんなに差はないと思っています。