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「お目通しアプリ」で配布プリントの学校確認が簡単に 引き継ぎを見越した「組織」のくふうとは?【千葉市立本町小学校PTA】

  
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非営利組織のIT活用交流会「チーム応援カフェ」にご登壇いただいた(右上から時計回り)前PTA会長 大木 康伸さん、前副会長 石橋 奈津子さん、PTA会長 増田 淳さん、IT担当 永瀬 孝之さん

祖父母の代から3代にわたって通う児童もいるという、創立150周年を迎える千葉市立本町小学校。最近は共働き家庭が増え、これまでのやりかたではPTA活動が難しくなってきたため、2020年度からITツール導入の検討を始めました。

なぜキントーンを導入し、どんなふうに活用しているのか? オンライン交流会「チーム応援カフェ」で、本町小PTA大木康伸さんにお話しいただきました(資料作成は石橋奈津子さん)

現状のPTA活動をどう効率化するか検討した

ITツールの導入に先立って、役員さんたちが最初に行ったのは、現状のPTA活動の整理でした。まずは今の活動を洗い出し、どの部分をどう効率化するか検討したところ、次のような意見が出てきました。

「イベントの計画を立てるとき、これまでは平日昼間に学校に集まって話し合いをしていたが、参加できない人もいたため、話し合いの結果を役員全員が共有できるようにする。」

「イベントを各家庭にお知らせする際は、役員さんがお手紙を作成し、これを学校に持って行く。教頭先生の確認が済んだら再度学校に取りに行き、それから印刷・配布、という手順だった。ITツールを使って、紙でのやりとりをやめる。」

「広報紙の作成時は、掲載する写真データ等をUSBメモリで受け渡ししていた。紛失等の危険があるため、オンラインストレージ等を活用し、USBメモリでのやりとりをやめる。」

次に、PTAの一般会員である保護者の人たちに、アンケートを行いました。すると「平日に学校に行けなくても、自宅での作業ならできる」という保護者や、「ITの整備に協力できる」という保護者がある程度いることがわかりました。

1.アンケート結果.png

では、ツールは何を使うのか? 各種ITツールを無料お試しして検討した結果、キントーンを導入することにしました。

キントーンを選んだ理由のひとつは、キントーンのユーザー数の上限が900(チーム応援ライセンスでは900ユーザーで年額9,900円)と、余裕があったことです。現在の児童数は約300人ですが、今後増加が見込まれています。またキントーンは、機能に過不足がなかったことも、導入の決め手となったといいます。

そこでさっそくキントーンをチーム応援ライセンスで契約し、2020年度中は、PTA役員と教職員だけで試用することにしました。初めてのことで、どんな問題が起きるか予想できなかったため、試行期間を設け、課題等を精査し、改善しようと考えたのです。

2.スケジュール_ps.png

個人情報保護と防犯の観点から対策を考えた

試行期間に見えてきた課題は、次のようなものでした。それぞれどんな対策を考えたか、見ていきましょう。

1. 配信できない情報について

最初に学校から要望があったのは、個人情報の保護や防犯の観点から「顔写真」と「登下校時刻」をキントーンで配信しない、ということでした。そこで、広報紙は顔写真が載ることがあるため紙での配布のみとし、登下校の時刻はキントーンに登録しないことにしました。

2. 登録する個人情報の限定について

ユーザーが登録する個人情報も、個人情報保護の観点から、「学年」「クラス」「保護者名」に限定することにしました。メールアドレスの登録は任意で、各保護者の判断に任せています。

3. ユーザー情報(ログイン名&パスワード)の案内について

役員が各保護者にログイン名やパスワードを連絡する手間を最小限に抑えるため、PTAに在籍する間、各保護者のユーザー名は変えないことにしました。保護者には、入学時にユーザー情報を記載した紙を配布しますが、その際は「ログイン名とパスワードは卒業まで使うので、紛失しないように」という注意書きを添えることにしました。

4. 教職員は管理者しかアクセスできないことについて

試用を始めたところ、学校の情報セキュリティの関係で、教職員は管理者である教頭先生しかキントーンにアクセスできないことが判明しました。そこで、教頭先生に使用方法を覚えてもらい、教職員とのやりとりは全て教頭先生を通すことにしました。

なお、教頭先生はPTA用に作成したGmailのアドレスを、キントーンに登録することにしました。登録したメールアドレスは他の保護者からも見えてしまうため、いったんGmailでメールを受信し、これを教頭先生の本アドレスに転送するように設定しました。

5. ログイン名やパスワードを忘れた際の対処方法について

キントーンはモバイルアプリで一度ログインすると、次回からログイン名やパスワードの入力が不要になります。普段はとても便利なのですが、スマートフォンの機種変更をした際などに「ログイン名やパスワードがわからなくなった」という問い合わせがよく来てしまうことがわかりました。

そこで、本部用のメールアドレスを用意して問い合わせ窓口とし、そこからログイン名やパスワードを連絡することにしました。ただし「ログイン名とパスワードの両方を忘れた」という場合は、なりすまし防止のため、紙に記載したものを子ども経由で渡すことにしました。

さらに、本部役員のなかに「IT担当」2名を新設しました。IT担当は、キントーンの管理者権限を持ち、ユーザー管理、アプリやスペースの作成・管理を行う役割を担います。

権限をユーザーでなく組織に割り当てるワケ

それでは、キントーンの活用方法を、詳しく見ていきましょう。

まずPTA会員には、1人につき1ユーザーを割り当てました。そして掲示板機能をもつスペースは、全保護者に開放するとトラブルが生じる可能性も考えられるため、PTA役員や委員のみが使用することに。アプリは増えすぎないように、IT担当の役員だけが作成・管理することにしました。

組織の設定は、引き継ぎまで見越して、ある工夫をしました。アプリやスペースの権限をユーザー個人に割り当てると、年度で役員が交替するたびに、すべての権限の設定をし直さなければならなくなります。そこで権限を割り当てる際は、個人でなく、組織を指定することにしたのです。

たとえば、PTA会長の本町さん(仮名)に権限を割り当てる際は、「会長」という組織を作成して、本町さんではなく、「会長」という組織に権限を割り当てます。そうすれば年度が替わって会長が他の人に交替したときも、「会長」に所属するユーザーを変更するだけで済みます。

3.ユーザーと組織.png

外部業者についても、権限を制限するため、PTAとは別の組織を作成して所属させる形にしました。これにより外部業者は、会員が使用するほかの領域にアクセスできない状態になります。

なお年度が替わった際は、卒業した保護者のユーザー情報の削除や、クラスの所属変更などといった作業が発生しますが、これらはIT担当役員が中心になって行っているということです。

次はポータル画面です。左側の「ようこそ」の上段には一般会員向けのアプリが、下段には本部役員向けのアプリがまとめられています。右側には、役員や委員ごとに「スペース」を設け、議題ごとに自由にスレッドを作成して情報共有を行えるようになっています。

4.ポータル画面とスペース_.png

作成したアプリでみんなの活動を効率化

次に、主なアプリの活用方法についてご紹介します。

1. PTA配布資料の学校確認アプリ(資料のお目通し)

以前は、作成したお手紙の原稿を紙で学校に持って行き、教頭先生が確認した後に取りに行っていましたが、これらのやりとりをアプリでできるようにしました。資料の作成から学校の確認と回答までのワークフローを規定し、プロセス管理の機能に設定しました。添付できるファイルは、PDF形式のみとしています。

5. 学校確認アプリ(Before).png

以前の資料確認フロー

5. 学校確認アプリ(After).png

資料お目通しアプリの一覧

2. PTA発行資料の発行・公開アプリ

次のスライド左の「PTA発行資料の公開アプリ」は、一般保護者向けのアプリです。どんな環境でも見られるよう、登録するデータはPDF形式のみにしています。一方、右の「発行資料の原本登録アプリ」は、役員のみが使用するアプリです。翌年度、同じ資料を修正して再利用できるように、こちらはWordやExcel形式でデータを登録します。

6. 発行資料の公開アプリ.png

3. イベントの出欠登録アプリ(一本杉見守り)

以前は、各保護者に紙で提出してもらっていた下校時見守りの希望日を、アプリで簡単に回答し、集計できるようにしました。レコードのアクセス権の設定を行い、ほかの保護者の回答を閲覧や編集できないようにしてあります。

7. 一本杉見守りアプリ.png

4. PTAのお知らせアプリ(お知らせ)

PTAが資料を発行したことや、イベントの出欠回答のお願いなどを、保護者に知らせるアプリです。レコードの条件通知の機能を使用し、学年やクラスを指定して通知することができます。

8. お知らせアプリ.png

「ベルマーク委員だより」を発行したことを全保護者に通知するレコードの画面

なお活動内容の引き継ぎには「引き継ぎ資料格納アプリ」を使います。各委員は年度ごとに、圧縮した資料をここに格納します。一方、キントーンの管理の引き継ぎは、ユーザー設定、スペース、アプリの設定内容を記載した設定書を作成して、次のIT担当に説明します。IT担当は前年の役員を1年間重複させ、新役員をフォローできるようにしています。

「知恵を出して、第一歩を踏み出すことが大事」

最後に、現状と今後の展開予定についてです。

本町小PTAでは現在、キントーンを利用している家庭が74%に達しています(2022年5月時点で272家庭中201家庭が利用)。立ち上げ期としては十分ですが、学校のメールシステムの登録は100%なので、もう少し利用率を上げられると考えています。

キントーンを利用した感想について、役員さんたちからはこんな声があがってきました。

*よかったこと
・資料の学校確認の状況について、学校に電話等で確認しなくても、一目で確認できる。
・役員内での資料の共有が容易になった。
・委員同士・学校・印刷業者と、写真やファイルをやり取りできるツールがあるのはとても助かった。
・保護者へ一斉にお知らせができるので、回答期限のあるもののリマインダーとして活用できた。
・PCとスマホで使えるので、「送りたいデータが保存してある方」などの選択ができる。
・メンションとプッシュ通知の機能が使える。

*悪かったこと
・未読通知を溜めてしまい、何の通知か分からなくなってしまった(反省)
・スレッドは良いのですが、乱立すると見にくくなるため、慣れが必要と感じた。
・メンションの候補がうまく表示されないことがある(マニュアルにコツを記載)
・スレッドに投稿があったとき、通知がくるような機能があるといい。
・スレッド作成者が誰なのか表示されないので、誰に削除権限があるかわからなくて困る。
・PC版にあるスレッドの最初の投稿内容の右上にある、最新の書き込み日時と投稿者が不要。

今後の展開は、2つ考えています。

ひとつは、「おやじの会」など他の保護者組織にもキントーンを使ってもらうことです。既に昨年度は、6年生の「卒業準備委員会」でキントーンを使い、学校との連絡や活動記録、経費の申請や精算を効率化できたとのこと。

もうひとつは、学校が発行するお便りもキントーンで見られるようにすることです。保護者のなかから要望があがっているので、今後、学校側と協議していく予定です。

最後に本町小PTA役員さんたちは、ITツールの導入を検討するPTAの人たちに向けて、励ましの言葉を寄せてくれました。

「みんなで知恵を出して、第一歩を踏み出すことが大事です」