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「どうやって子どもたち一人ひとりと向き合うの?」─自律と共生を育むイエナプラン認定校のICT活用実証実験レポート【大日向小学校】

  
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イエナプラン教育は、ドイツで始まりオランダで広がった一人ひとりを尊重しながら自律と共生を育む教育です。2019年に日本で初めてイエナプラン教育に基づく小学校として長野県佐久穂町に開校した大日向小学校は、豊かな自然のなかで、異年齢の仲間と共に子どもたち一人ひとりが自らの関心に沿って学んでいます。

建学の精神「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくる」の実現に向けて、大日向小学校とサイボウズは業務システムを簡単に構築できるキントーンを活用した持続可能な学校教育モデルの実証実験を2020年4月から行ってきました。

取り組みを始めて約1年。新型コロナウイルス感染症の流行という予想もしなかった環境の中、大日向小学校ではどのようにICTを活用し、一人ひとりに向き合ってきたのでしょうか? 実証実験報告会にて、校長の桑原昌之さん、教諭の原田友美さん、保護者で学童クラブ代表の岩崎丈さんに語っていただきました。

イエナプラン教育の実践とICT

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子どもたちからは「くわまん」と呼ばれている大日向小学校の桑原昌之校長


大日向小学校および中等部の児童生徒数は現在117名、教職員は28名で運営しています。中等部はフリースクールで、来年度を目標に開校を目指しています。標高895m、長野県の東にある佐久穂町。長野の中でも首都圏に近いという立地もあるからか、地元の人たちは、非常に外の人たちに対して優しい街です。教職員や在校生の多くはこの環境に惹かれたり、大日向小学校の理念に共感したりして移住してきました。

イエナプラン教育には20の原則と呼ばれるものがあり、その1つ目は次のように始まります。「どんな人でも、世界にたった一人しかいない人です」

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異なる3学年の児童生徒(例えば下学年は1年生〜3年生)が同じ教室にいることによって、小さな社会を学ぶ工夫をしています。勉強を「仕事」と言って、グループリーダー(教員)が作った課題表を元に、「わたしのスケジュール」というものを自分自身で書きます。まさに、「仕事」ですね。iPad、Chromebook、WindowsパソコンなどICT機器も自由に使えます。

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昼休み後のワールドオリエンテーションは、総合的な学習の時間に近いものです。例えば佐久穂町の特産品でもあるプルーンの畑を地域の方から借りて、摘果→収穫→出荷、そして加工の探究を1年かけて行うなど、「本物から学ぶ」ことを大切にしています。

学習の評価は、「わたしプレゼン」という時間で、子ども自身が保護者やグループリーダーを前に頑張ったことを発表することによって行われます。大日向小学校ではA B Cといった評価を記載した通知表はありません。テストは、一斉にやるのではなく、子どもが自らの学習進度を図るためにやっています。

大日向小学校では、グループリーダーは教室では仕事としてスマホを使います。他のスタッフと情報共有を行い、常に連携して学校運営にあたるためです。

日常的な連絡にはチャットアプリのWorkplaceを使っていますが、チャットは情報が流れていきます。「児童の情報を一元管理できると良いよね」というところからキントーンを使い始めました。

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校長からみ見たキントーンの良さは、児童・生徒に関する情報や出来事を蓄積でき、検索すると素早く状況がわかることです。オンライン勤務であってもどこでも情報共有ができることもメリットだといいます。

これから校長がキントーン活用に期待するのは、さらなる情報の一元管理です。課題は、チャット機能で、できればキントーンで一元管理したいそうです。

教職員はのんびりしている暇がないことも課題です。こどもたちのことを考えて、いろいろな新しいものを創っていくスーパー先生が多いのです。先生はICTツールをフル活用していますが、なかったらさらに大変でしょう。

大日向小学校の教室では子どもたちもICTを利用します。

「イエナプランで大切にされている考え方の一つに『本物から学ぶ』ということがあります。当たり前にスマホを使う世の中です。子どもたちも良い使い方を知らないといけません。教室には子どもた使える機器も用意していますし、中には自分でiPadやスマホを持ってくる子もいます。できる限り教室を実社会に近い環境に近づけます。もちろんこうした新しい学び方を実践するにあたっては、さまざまなルールを皆で作らねばなりません。」(桑原校長)

チームワークで支え合わないと、こういった学校運営はできないかもしれません。

児童の観察記録、保健室来室記録を教職員間で共有

通常の言い方だと担任と言われる「グループリーダー」をやっている原田友美さんはキントーン活用の中心メンバーです。通称「はるさん」と子どもたちからは呼ばれています。

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大日向小学校 教諭 原田友美さん(はるさん)


最初に、解説してくれたのは、キントーンのチーム単位でのコミュニケーション機能「スペース」の利用についてです。学校では、大きく学年ごとのスペース、学校全体に関わるスペース、そして、外部組織との連携のためのスペースに使い分けています。学年ごとのスペースでは、学年チームごとに教材情報を集めて共有しています。

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はるさんが、使っている教職員にメリットを聞いてみたところ「膨大な量の書類がカテゴリーで分かれて、時系列に表示されるので見つけやすい」「資料がつみかさなっていることが可視化されていてすごい」「過去をみて、この時期にこんなことをしていたということがわかるので次年度以降に活用しやすい」というコメントが寄せられました。

「スマホの画面では、見づらい」「全職員がもっと活用できたら会議の削減にもつながりそう」というコメントもありました。今後の利用の最適化や拡大が期待されます。

次にキントーンのデータベースをつくることができる機能「アプリ」についてです。一人ひとりの子どもを教職員全員で見ることを大切にし、膨大な情報量を扱う大日向小学校ならではの様々なアプリがあります。

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例えば、どこにどんな情報があるのかを整理した便利帳アプリは、はるさんは5分くらいで作りました。本棚のようなイメージで、リンク先を整理しています。多くの教職員が便利に使っているそうです。

一番、大日向小学校らしいアプリとして、児童生徒情報の記録と管理のアプリ群があります。名前や誕生日、出身園などの児童・生徒情報アプリを中心として、その周りに観察記録アプリ、面談記録アプリ、保健室来室記録アプリを作って連携しています。

観察記録アプリは、この子のこんなことができるようになった、こんな姿を見たと現場でスマホを使って記録していくアプリです。子どもの名前の最初だけ入れるだけで、基本情報が自動的に入り、イエナプランの評価観点のカテゴリーごとに観察したことをその場で入れるそうです。複数の教職員が接した一人ひとりの子どもの関心や学びを入力し、あとから担当のグループリーダーが知る手がかりにしています。

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保健室来室記録アプリは、養護教諭と相談しながら作りました。保健室の来室についてグループリーダーと養護教諭が情報共有できるようになりました。

養護教諭からは「項目別のグラフ化がしやすくなった」「いつ具合を悪くしたのか個人の記録を遡りしやすくなった」「毎日保健室にくる子は、こんな傾向があると分析もすぐできるのがとても良い」「使いながら選択肢を増やしたり、項目を減らしたりできる点も気に入っている」とコメントが寄せられました。

学校と学童クラブはバス予定を共有

大日向小学校の保護者であり、学童クラブ「ひなたぼっこ」の代表を務める岩崎丈さんには学童でのキントーン活用について解説いただきました。

岩崎さんもニックネームがあり「ジョーさん」と呼ばれています。ジョーさんは、お子さんの転入にあわせてIT企業を退社し佐久穂町に移住してきました。地域づくりに関わりながらITコーディネーターとして地元中小企業のIT経営支援を行っています。

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大日向小学校 保護者・学童クラブ「ひなたぼっこ」代表 岩崎丈さん


学童クラブ「ひなたぼっこ」は、開校当時、学校周辺は自然豊かではあるものの子どもたちが放課後に遊べる場所や機会が少ないということから、学校や周辺地域で遊べるように保護者有志で立ち上げた組織です。現在は13名の保護者サポーター、10名の地域サポーターで子どもたちの居場所と遊びを支えています。

ひなたぼっこでも、学校と同様に本物志向です。保護者の中のバレエの先生に、バレエを教えてもらったり、地元の大工さんに木工を教わったりしています。

ひなたぼっこと一般保護者の連絡はslackです。ひなたぼっこと学校の教職員間はキントーンのゲストスペースとアプリでやりとりしています。ひなたぼっこのサポーターの中での業務連絡はLINE、集約する情報はキントーンを使っています。

その中でも、一番使っているキントーンアプリは「子どもの予定管理アプリ」です。アプリには子どもの見守り時間を記録し、時間に応じて保護者に費用を請求します。紙で行うと本来のサポーターの業務ができなくなること、なくすことを考慮してキントーンにしています。別のアプリではサポーターの勤務時間を管理しサポート費の計算に使います。

サポーターの共有スペースでは、学校同様に子どもの情報が書かれています。新しく入ったサポーターは、この情報をみて子どもと接するので安心して関係が築けるそうです。

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報告会の質問コーナーでは、「学童クラブの子ども情報と学校の子どもの情報は、共有することがありますか?」との問いがあがりました。

校長からは、1ヶ月に1度1時間、ひなたぼっこのサポーターと学校ので共有する会議が開かれているとのこと。そこでは、遊ぶ場所、道具の問題、子どもたちのことを話あっています。

ジョーさんからは、子ども個別に、教室ではグループリーダーがどう対応しているのかを聞く機会が大切だと言っていました。なぜなら、教室での指導のしかたとひなたぼっこでやることが違っていると子どもが混乱するからです。それを防ぐために聞いています。

もう一つ、学校とひなたぼっこでの共同作業が、帰りのスクールバス予定の共有です。校長とひなたぼっこのサポーターは毎日、帰りの子どもたちの見送りをしています。どの子どもがひなたぼっこで遊んで、バスで帰るのか、学校とひなたぼっこで知っている必要があります。そこで、両者で見ることができる安全なゲストスペースを作って、子ども予定管理アプリを共有しています。

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アプリでは、学校が知っている「バスに乗るよ」という情報と、ひなたぼっこが知っている「学童クラブに参加するよ」という情報が、手間をかけることなく、一元管理できています。これにより、乗り間違えなく、子どもたちを送れます。

最後に、案内役を勤めたサイボウズの中村龍太は、「誰もが、豊かに、そして幸せに生きることのできる世界をつくるために、巨大なホワイトボードのような情報格差のない世界を子どもたち、教職員、保護者、そして地域の人たちと一緒に作って行きたい」と言って締めくくりました。

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【資料】

大日向小学校校長 桑原昌之さん(くわまん)

大日向小学校教諭 原田友美さん(はるさん)

学童保育ひなたぼっこ代表 岩崎丈さん(ジョーさん)

サイボウズ社長室長 中村龍太(りゅうた)