Case
事例
フリースクールDX最前線、生徒によるkintoneカスタマイズで在籍校や保護者とも連携
学校に行けない子どもたちに、「生きているだけで祝福される居場所」を提供したい。そんな思いでつくられたフリースクール「ぴおねろの森」(千葉県印西市)。牧場に隣接する森に置かれたトレーラーハウスを拠点に、小学生から18歳までの子どもたちに、学びの場を提供しています。
今回は理事で、サイボウズ社員でもある中村龍太さんに、kintoneをどのように使っているのか教えてもらいました。

中学生がつくった「入室記録システム」が稼働していた
龍太さんが「ぴおねろ」に参画したのは2023年頃。サイボウズによる学校の働き方改革の支援で、学校にしばしば行くことがあり、別室登校生や不登校生の姿をみて、フリースクールに興味を持ったことがきっかけでした。
当時の「ぴおねろ」には、こんな課題がありました。

まず、さまざまな仕事がリーダー一人に集中していたこと。運営スタッフはほかに4名いるものの、フルタイムでの雇用は難しく、代表者があらゆる意思決定や判断をしつつ、子どもたちに寄り添い、かつ寄付金の対応や理事会の開催などまで行っている状況でした。
子どもたちへの寄り添いはもちろん、保護者とのコミュニケーション、スタッフ間や子どもの在籍校との情報共有ももっと充実させたい。でもそれには、スタッフもお金も全然足りない。そんなジレンマがありました。

そんな「ぴおねろ」で、当時から進んでいたのが「ぴおルーム」という入室記録システムでした。「ぴおねろ」に来た子どもが、自分のQRコードを入口の端末にかざすと、入室時間を独自のデータベースに記録してくれるというものです。
このシステムはなんと、「ぴおねろ」に在籍する入田翔太郎さんが、当時中学生ながらプログラマーとして開発したものでした(現在は高校生)。

アクセス権はスペースごとに設定するのがおすすめ
龍太さんは「ぴおねろ」に参画すると、さっそくkintoneを導入しました。現在「ぴおねろ」で使われているポータル画面はこんな感じです。

翔太郎さんは、kintoneをベースに入室記録システムを作り替えさらにおみくじ機能も加えました。パソコンにQRコードをかざすと「末吉」など運勢が表示されます。子どもがQRコードを忘れた際などは、スタッフがkintone上で記録します。

アクセス権は、それぞれの「スペース」ごとに設定しています。たとえば「開拓者の森」は運営スタッフのみが、「ぴおねろ会計」は運営スタッフと会計士、税理士がアクセスできる、といった具合です。
「アクセス権はなるべくスペースで設定し、そのなかにアプリを入れるのがコツだと思います。どうしてもアプリでなければ権限設定できないものだけアプリで設定する、というルールにするのがおすすめです」(龍太さん)
基本のアプリは「子どもの名簿」と「ぴおスケジュール」
こちらは、スタッフが利用している「開拓者の森」スペースにある、「子どもの名簿」アプリです。



予定は、「ぴおスケジュール」アプリに入力しています。

予定を登録する際は、スタッフだけが見るものには赤のマーク、スタッフだけでなく保護者にも共有したいものには緑のマークをつけています。
緑のマークがついたスケジュールは、「ぴおスペース」という保護者が見るWebブラウザ系アプリ(これも翔太郎さんが作成)にも表示されるようになっており、保護者スマホなどからいつでも手軽にスケジュールを 確認することができます。
スタッフが見聞きした子どもの情報は「ぴおキッズ」に
それぞれの子どもに関して、子どもや保護者から得られた情報をスタッフ間で共有する際には、「ぴおキッズ」というアプリが使われています。


このようなツールを使うことで、「ぴおねろ」のスタッフは、一人ひとりの子どもの情報を共有&確認することができています。
学校の先生にも好評な「安否確認システム」
「ぴおねろ」では、スタッフと学校関係者が利用する「ぴお入室情報」スペースで、子どもの入室情報を「安否確認システム」として、在籍校の先生とも共有しています。

現在「ぴおねろ」には、印西市のほか佐倉市、我孫子市、白井市など近隣自治体にある計13校に在籍する子どもたち68名が登録しており、安否確認をしたい学校の先生にkintoneのアカウントを渡し、在籍する子どもの入室情報を閲覧できるようにしています。
「学校の先生がたには『出席認定』の話をするより、『子どもの安否確認をできるツール』と説明したほうが『便利だ』と興味を持ってくれることが多い印象です」(龍太さん)

このように子どもの入室情報を学校と共有することには、「学校とフリースクールの双方にメリットがある」と龍太さんは言います。
「年度末には、それぞれの子どもが『ぴおねろ』に来た合計日数を、学校は簡単に把握できます。先生はこのデータを見て出席認定することもできるし、データを見たうえで『ぴおねろ』のスタッフと話すこともできるので、スタッフにとっても時間の短縮になります」
なお、年度末から新年度にかけては先生たちが異動するため、kintone上で先生のアカウントを変更したり、アクセス権限を設定し直したりするのは「ちょっとだけ大変」だとか。そこは、龍太さんが担当しているそうです。
「ボタン一つ」で月ごとの集金額を表示
会計にも、もちろんkintoneが使われています。
先ほどの「入室記録システム」を開発した翔太郎さんが、JavaScriptでkintoneをカスタマイズして、ボタン一つ押すだけで月ごとの集金額(出席日数×利用料)が出るようにしてくれました。

なお、以前は現金含め複数の手段で受付けていたため、入金状況の確認や集計が難しかったそうですが、kintoneに移行する際に銀行口座一つに絞ったところ、作業がしやすくなったそうです。
スタッフが帳簿をつける際に「勘定科目がわからない」といったときも、安心です。「ぴおねろ会計」には会計士と税理士も入っているので、スレッドで気軽に質問できます。


最終的にはkintoneにある会計情報をクラウド会計ソフトの「freee」に移し、龍太さんが税務申告まで行っているということです。
情報共有によりコミュニケーションコストが大幅に削減
kintoneの導入によって問題解決した内容をまとめると、こんな感じです。

まず、情報共有によって会計、IT、買い出し、お料理担当などをスタッフ間で分担が可能となり、結果的にリーダーの仕事が40%ほど削減。
子どもや保護者とのコミュニケーションも、対面によるミーティングからkintone上での会話に多くが移行した結果、月40時間ほどの時間が削減されました。
さらに学校とのコミュニケーションにおいても、かつて作成していた出席状況報告書が不要となり、電話対応からの脱却も進んだことで、月に2時間ほど削減されました。
結果、リーダーやスタッフが子どもや保護者に寄り添う時間が増え、自分の暮らしとフリースクールでの活動を両立しやすくなったということです。
龍太さんは、システムをうまく利用した社会について、こんなふうに展望します。
「僕の理想は、その子がどんなふうに育ってきて、これからどうしたいのかということを周りのみんなで共有し、子どもを真ん中にして、kintoneでプラットフォームを作っていくことです。『ぴおねろの森のスタッフだけがラクになればそれでいい』というわけではなく、ITを使うことでみんなが負担なく、いい場所を作れたらいいなと思っています」
いまは、その「とっかかり」を作っているところ、と話してくれました。
なお、名簿や活動記録、会計アプリなどがまとまっているフリースクール向けkintoneアプリパック(スペーステンプレート)を提供しています。お気軽にお試しください。