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学童保育のDX!「スマホでできて簡単でしょ?」職員さんの操作をとことんシンプルに【特定非営利法人コムラボ】

  
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非営利組織のIT活用交流会「チーム応援カフェ」にご登壇いただいた、代表理事の山田雅俊さん

学校やPTAのデジタル化が進むなか、学童保育のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも注目が集まっています。

栃木県足利市の特定非営利活動法人コムラボは、キントーンを使って「職員さんがスマホやパソコンをポチポチ押すだけ」で簡単に報告書を提出できるシステムを開発。以前は毎月ほぼ丸一日かけていた事務作業が5、6時間ほど短縮されたうえ、日報で共有される情報の質も向上し、現場からは喜びの声があがっています。

どういったシステムを、どんな点に気をつけて開発したのでしょうか?2022年7月に開催した「チーム応援カフェ」で、コムラボ代表理事の山田雅俊さんが教えてくれました。

市に毎月提出する報告書が負担になっていた

システムを導入する前、学童の現場では、毎月の報告書の提出作業が負担となっていました。児童の出席状況や職員の勤務状況、日報などを、紙またはPDFデータで市に提出しなければならないのですが、フォーマットとして支給されるExcelやWordデータは入力がしづらく、また現場にはパソコンを使える職員さんが少なかったため、紙(手書き)での提出が主流でした。

1.システム導入以前.png

そんななか、4人の子どもの父親として学童と長く関わってきた山田さんに声がかかります。2021年秋、市から学童のICT整備のための補助金が出ることになり、足利市学童保育連絡協議会(以下、市連協)からコムラボに「学童の運営管理を電子化してほしい」との相談があったのです。


2.システムのメニュー画面_.png

結果、完成したシステムがこちらです。パソコンでもスマートフォンでも、学童のスペースにログインすると「児童出席簿」「職員出席簿」「保育日誌(日報)」の3つのボタンが大きく表示されます。職員さんはこの3つを毎日入力するだけ。あとは、必要なデータが月ごとにPDFで出力されるので、メールに添付して市に送ればOKという、わかりやすい仕組みです。


3.児童出席簿_.png

操作方法は、たとえば「児童出席簿」を押すと、在籍児童の名前がボタンで表示されます。それぞれの名前ボタンをクリックすると「出席登録しますか」と聞かれ、「OK」を押せば出席の日時がキントーンのレコードに書き込まれます。名前のボタンはJavaScriptで作成しました。


4.職員出勤簿_.png

「職員出席簿」も同様です。名前ボタンを一度押せば出勤、もう一度押すと退勤として日時が記録されます。夏休みなどは「中休み」の時間があるため、出勤も退勤も1日2度まで、「10-12時と13-16時」といった打刻も可能にしました。


5.保育日誌_.png

「保育日誌」は記録しやすいよう、シンプルにしました。日々のできごとを記録する「記事」のほか、「おやつ」「怪我・体調不良」といった必要最低限の欄を設けています。

毎月の集計は、ボタンを押すと市が指定する帳票のPDFファイルがダウンロードされるようにしました。

6.PDF出力_.png

山田さんらが最も重視したのは「学童の職員さんの操作を、できるだけシンプルにすること」でした。職員さんのICTスキルにはかなりばらつきがあり、パソコンを使わない人も多いため、なるべくスマートフォンで記録できるようにしたということです。

「やること/やらないこと」をはっきりと定めた

7.ステークホルダー_.png

システム開発は、学童をとりまとめる市連協と、コムラボが協力して進めました。お金の出どころは、市役所です。昨年秋に出ることが決まった補助金は、「学童のICT化に関することならなんでも、全額補助(上限50万円)」というものでした。この一部を使って、開発を進めたということです。

この補助金は「とても使い勝手がよかった」と、山田さんは振り返ります。たとえば「固定の光回線の導入」「Wi-Fiのアクセスポイントの増設」「提出書類の電子帳票化」など、それぞれの学童現場のニーズに応じた使い方を選択できたからです。要件が細かく決まった補助金だと、なかなかこうはいきません。

開発の際、最大の課題となったのはスケジュールでした。秋に予算が下り、年度内にすべて終わらせなければならなかったため、実質3、4か月で完成させなければならなかったのです。

8.学童クラブ業務ICT化の課題_.png

ほかにも、ICT化においてはいくつかの課題がありました。一つは「ICTスキル」という課題です。新しく覚えることがあると、職員さんたちの負担になってしまうため、学童に置く機器は増やさないことなどを心がけました。

二つ目は「費用」という課題です。本業でもシステム開発に携わってきた山田さんは、「システムを運用し続けることの大変さ」もよく知っていたため、「長い目で見れば、独自のシステムをつくるより、大きな会社のシステムにのっかったほうが費用を節約できる」と判断したそう。

三つ目の課題は「利便性」です。それまでは紙で情報を管理する学童がほとんどでしたが、一人が記録紙を持っていたら他の人はアクセスできませんし、災害時に紛失する恐れもあります。足利は水害のリスクもあるため、「データをクラウド化したほうがいいだろう」という結論に達しました。

9.kintoneがあるじゃないか!_.png

以上のような課題を考えあわせた結果行き着いたのが、コムラボが使い慣れているキントーンを使う、という結論でした。スケジュールがタイトななか、安価にシステム開発を進めるためには、これがベストだという判断です。チーム応援ライセンスの契約は、市連協に行ってもらいました。

キントーンを使うことには、別の利点もありました。ゼロからシステムを開発する場合、かなり作り込んでからでないと「これで、どうですか?」と発注者に確認することができませんが、キントーンなら画面を共に見て、話をしながらシステムを作ることができます。「とりあえず始められるのも、よいところ」と山田さんは話します。

10.PDF出力は有料プラグインを採用_.png

悩んだのは、PDF出力の方法でした。キントーンにはPDF出力の機能がなく、そのためのプラグインは年間数万円以上かかる高価なものが多かったのです。ですが、これも年間わずか7500円で使えるプラグイン(拡張機能)を見つけ、解決することができました。操作も画面の2か所をクリックするだけなので、職員さんにもすぐ覚えてもらえます。

11.やる(やらない)ことを決める_.png

開発がうまく進んだ一番のポイントは、やることとやらないことをはっきり決めたことだったと山田さんは考えています。職員さんが日々データを入力し、月末で締め、学童管理者が出力したPDFを市役所に簡単に提出できること――。今回はこれをゴールと定め、「それ以外のことはやらない」と決めたのが正解だったそう。

開発中、学童の現場からは「備品管理アプリがほしい」「会計機能はつかないのか」などといった要望もあったそうですが、ゴール以外のことには敢えて手をつけませんでした。もし手をつけていたら、期限までに完成できなかったでしょう。

なお会計については、各学童がそれぞれ異なるソフトやアプリを使っていたため、かえって手をつけないほうがよさそうだ、という判断もあったということです。

システムの導入にあたっては、事前に「セキュリティ講座」などの勉強会を2、3回行い、データの取扱い等について注意を促しました。さらに、システムを導入した9つの学童にはそれぞれ「個別サポート」という形で、不明点のフォローも行ったということです。

日報が書きやすくなり、細かな情報まで共有できるように

12.市の書類提出が楽になった!_.png

2022年の春から運用を開始して、約4か月。書類を提出するための事務作業が減り、現場からは喜びの声が上がっています。「ボタンをぽちぽち押すだけで、PDFまでぱっとダウンロードされるので、だいぶ楽になった」という感想もあり、操作が簡単であることも評価を受けているようです。

13.出勤前に前日の日報が確認できるようになった!_.png

データをクラウドで共有できるようになったことも、メリットをもたらしました。以前は、前日がお休みだった指導員さんは早めに出勤して、前日の日報を確認しなければなりませんでしたが、いまはスマホなどからキントーンで確認できるようになりました。

14.日報がたくさん書けるようになり情報共有の質が上がった!_.png

「日報がたくさん書けるようになって、情報共有の質が上がった」という声もありました。以前は記録紙やノートに日報を書いていたため、あまり多くの文字数を残せませんでしたが、キントーンなら好きなだけ入力できます。そのため、以前より細かな情報まで共有できるようになったことも、現場では歓迎されています。

ただし、予想外のこともありました。システム上、日報はA4×1枚で出力できるようにしたのですが、入力しやすくなったこともあり、テンプレートでは出力しきれない量の日報が出てきたのです。これについては、市役所が「報告のときにキントーンの画面を見せればOK」にしてくれたので、ことなきを得たということです。

15.小学校でコロナ感染拡大_.png

市役所によるコロナに関するヒアリング調査への回答もラクになりました。子どもたちの感染状況や行動について、以前はメモや記憶に頼って回答していましたが、いまはキントーンに情報が一元化されているのですぐ答えることができます。

保護者と電話や会話でやりとりした内容も職員間で共有しやすくなりました。連絡事項は各児童のマスターにコメントとして記録しているので、有事の際も安心だと喜ばれているということです。

データは蓄積してこそ価値を持つ

16.さいごに_.png

最後にまとめとして、山田さんは「学童のDX」について、3つのポイントをあげてくれました。

一つめは「DXと言わずに(こっそり)DXする」こと。聞きなれない言葉を使うと、苦手な人に拒否反応が生じやすいので、「ほら、スマホで入力できて、便利でしょ?」などと誘ったほうが成功しやすいのでは、とのこと。

もうひとつは「やること/やらないことを決める」、つまりしっかりと要件定義をすること。ゴールをはっきりと定めてスモールスタートするというやり方が、山田さんのおすすめです。

さらに、「続けられる仕組みを意識する」こと。データは蓄積していくことで資産になるので、「システムを作ったら終わり」ではなく「作ってからが始まり」です。ですから、何年も続けられる仕組みを意識することが欠かせないといいます。

とことん現場に寄り添いつつ、新たな価値を生み出すことまで念頭に置いた、コムラボの学童DX。学童の現場にとっても、市連協や市の担当課にとっても、かけがえのない財産となったのではないでしょうか。欲を言えば、市役所の担当部署のDXも進めたかったそうですが、これはまた先の課題となりそうです。

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